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第3部
Francesco Baccini(47/Genova出身)は、幼いころからクラシックピアノを習っていましたが、20歳の時に、QueenやFabrizio De Andréを聴いて、ロックに目覚めます。Genovaでステージに立つようになりますが、生来の恥ずかしがり屋の性格が邪魔をして、成功するのに時間がかかります。28歳(1988年)にようやくシングル盤でデビュー。翌1989年にリリースした1stアルバム「Cartoon」がいきなりTenco賞に輝くことになります。以後、1〜2年毎にアルバムをリリースし続けて、今日に至ります。
Bacciniの音楽は、まじめなものから、コメディタッチなものまでに広がっており、人間の深層心理を深く観察しつつ、少々の皮肉を忘れずにまぶした作風が特徴です。
「Dalla parte di Caino(カインの側から)」(2007)。人類で最初の殺人と嘘という2つの罪を犯したことで知られる、聖書上の人物カイン。いつも悪役として語られるカインの立場に立って歌った同名の曲をアルバムに据えています。実弟アベルに対する嫉妬という感情をコントロールできずに、凶行に及んでしまったカインを引用して、『間違いを犯さない人間なんていないんだ』というメッセージを、凹んだ気持ちを喚起させるために使っているようです。
FESTAで紹介したシングルカット曲"Il topo mangia il gatto(ネズミは猫を食べる)"も同様に、時には食われる側の立場のネズミだって、逆に猫を食べてしまう時だってあるさ!と弱者の気持ちを鼓舞させるような応援歌、といったところでしょうか。自然に体がスウェイしてしまうような心地よいリズムに乗せて、『アイ・アイ・アイ』 というスキャットがたくさん入っているところが、覚えやすい曲です。Gianluca Grignaniとの共作。
"Il cielo di Milano(ミラノの空)"は、別れ歌のバラード。その情感豊かな音の世界に何人かの参加者から拍手が沸き起こりました。
Bacciniのラストソングは、9月FESTAで紹介したIvan Grazianiの"Monalisa(モナリザ)"のカバー。Bacciniというカンタウトーレが、自作曲にこだわらず他者の作品も良く歌う、という良い事例だと思います。原曲の雰囲気そのままに、Grazianiの特徴的なファルセットヴォイスで歌わなくても、この曲の魅力が失われないということを充分に実感させてくれました。
アルバム全体を通しても実に聴きごたえのある作品ということで、おススメです。
第3部のトリはGianna Nannini(51/Siena出身)。6月FESTAで2007年の新作アルバム「PIA」を紹介したばかりですが、1991年のライブアルバム「Giannissima」の映像が突然DVD化されて2007年に発売されましたので、ロック姐ちゃんとして君臨していた35歳当時のGiannaを紹介することにしました。
Luccaの音楽院でピアノを学んだ後、Milanoに移り、ミュージシャンとしての活動を開始。Mario Lavezziが結成したFlora Fauna & Cementoに参加した後、20歳(1976年)の時にソロデビュー。
23歳(1979年)の時にシングルとしてリリースし、Gianna Nanniniの名を一躍有名にした大ヒット曲"America"をFESTAで紹介。ロック魂溢れるステージと、激しいサウンドの中にもイタリアのメロディを感じさせるところが彼女のアイデンティティそのものをよく表している作品です。
黙って立っていれば、ジョディ・フォスター似の美人なGiannaですが、ロックスターとしてのパフォーマンスは過激で、胸をはだけて乳房を出すわ、マイクやマイクスタンドを男性器に見立てたセックス描写を取り入れたりと。
2曲目は、ヨーロッパ中で大ヒットとなった"Ragazzo dell'europa(ヨーロッパの男の子)"(1982)は、郷愁感を掻き立てる曲調の名曲。
3曲目は、これまた大ヒット曲"I maschi(男たち)"(1987)。Giannaの数あるヒット曲の中で、トップクラスの販売数を誇るこの曲は、同年のヤマハ世界歌謡祭に参加するために書きおろされた作品ということで、来日記念版として国内盤も発売された、日本のファンには忘れられない作品だとも言えるでしょう。
ベースがリードを取る印象的なイントロから始まるミドルロックで、流れるようなメロディラインとシンセサイザーの音色が絡みあうのが心地良い名曲。
ベースが再びメロディを奏でる場面で、Giannaはかぶっていた帽子をベーシストに自らかぶせるところが、微笑ましい。
時間に少々余裕があったので、もう1曲"Bello e impossibile(美しくて不可能な)"(1986)は、明快で判り易いメロディを持ちながらも、『受肉(托身)』というキリスト教の概念を歌った歌詞が多くのイタリア人の心に沁み入るようです。
※ 受肉(托身):キリスト教の根幹をなす三位一体説。その三位のうちのひとつである神の子イエスが人間(=肉)として生を受けたこと。
本当、1980年代後半のGiannaの作品には名曲が揃っているということが実感できると同時に、名実ともにイタリアの女性ロッカーの頂点に立つGiannaのエネルギーを体感できる良い映像作品だと思います。
ちなみに楽屋で、「サクラ、サクラ」と日本の曲を口ずさむGiannaのシーンも収録されているのも、1987年の来日の体験からだと想像すると、日本人としてもうれしいところ。


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