Sanremo Giovani(サンレモ・ジォーヴァニ)で選出されサンレモ音楽祭2019への出場権を獲得したばかりのほぼ新人が、いきなり本選で優勝を遂げると言う大どんでん返し。同大会は新人部門が設けられなかったため、例年なら新人部門優勝に留まるはずの楽曲&アーティストが総合優勝するという番狂わせが起きたのだ。

優勝者となったのはカンタウトーレのMahmood(マームッド/27歳/Milano出身)。そのアラビア語っぽい名前と外見からイタリア人ぽさが感じられない通り、彼はエジプト人の父とイタリア人(サルデ−ニア人)の母の間に生まれた混血だ。アラビア語圏では“マフムッド”という発音をするようだが、イタリアでは“h”を発音しない(できない?)風習があるので、“マームッド”といった呼ばれ方をしている。しかし生まれも育ちもミラノで、ファーストネームはAlessandro(アレッサンドロ)なので、本人には異邦人感覚はないそうだ。
Mahmood_SR2019_vincitore

彼は20歳の時にオーディション番組Xファクターに出場したものの予選落ちしたし、サンレモ音楽祭2016新人部門に出場した時も初戦敗退していたので、なるべくして勝者になったという感じにはほど遠い大穴の存在だった。

サンレモ2019優勝曲を収録したアルバム『Gioventu` bruciata(意:焼けた若さ)』(2019)にしても、彼の1stアルバムだ。それまでのシングルヒット曲を初めてアルバムに収録して発売できるようになった、という感は拭えない。
Mahmood - Gioventu bruciata

彼が初めて注目を浴びたのはサンレモ優勝の僅か10ヶ月前のItalian Music Festival 15で「Uramaki」を歌って優勝した時だ。"Uramaki"とは実は日本語で漢字で書くと"裏巻き"。寿司の"海苔巻き"の変わりヴァージョンで、海苔を内側にシャリを外側になるように"裏巻き"したものだ。日本では存在は知られていてもあまり食べる機会の無いこの"裏巻き"が、外国ではむしろメジャーなのだそうだ。欧米では海藻を食べる習慣が無いので、海苔にも全く馴染みがない。米を覆う黒いモノは包装紙にしか感じられず、それを剥かずにそのまま食べるのには大きな抵抗を感じる故、欧米の海苔巻は"裏巻き"の方がメジャーだそうだ。

歌詞中には何の脈絡もなく"Uramaki"と出てくるだけで、特に日本や寿司の事を歌っている訳ではない。むしろ冒頭に"チャイナタウン"のキーワードが歌われ、ヴィデオクリップもチャイナタウンでの撮影なので、"東洋的なモノ"が一緒くたにされているようだ。

2018年夏には「Milano Good Vibes」をリリース。この歌詞にも"Samurai"のキーワードが何回も歌われ、ヴィデオクリップではMahmoodは漢字が入ったオープンシャツを着ている。

「Asia occidente(意:アジア・西洋)」は現代版R&Bっぽい楽曲。タイトルだけを見ると"西アジア"のように感じるが、歌詞の内容は"僕がアジアだとしたら君は西洋だ"と歌っているので、2人の関係をアジアと西洋に例えている内容だ。両者は異なり離れている、という側面と両者は隣接した隣同士の関係、という2つの意味を含ませているように感じられる。歌詞の内容は彼と実父との関係のことが歌われているのかも? 実は彼の両親は離婚していて、彼は母の元で育ったのだが、父はちょくちょく彼の元を訪れているらしい。

アルバムタイトル曲「Gioventu` bruciata」には彼の父の出自である"アラブ"のキーワードが入っている。

そして予想に反してサンレモ2019優勝曲となった「Soldi(意:カネ)」。これは別れた実父との確執、それに反して実父を愛おしく思う気持ちが込められている。息子が芸能人になったら、父がちょくちょく訪ねて来るようになったことから、息子は敏感に父の真意を悟ってしまうのだ。"僕にSoldi(カネ)ができたとでも思ったのかい? 結局カネが目当てだったのかよ...orz"と。しかしながら、ところどころに隠しきれない父の愛に飢えた息子の気持ちが混ざっているのだ。アラビア語のフレーズで《愛しい息子よ、ここにおいで》という部分も。かつて父が言ってくれていた懐かしい言葉なのだろう。

ちなみにMarco Mengoni(マルコ・メンゴーニ)のアルバム『Atlantico』(2018)にはMahmoodと共作した楽曲が何曲も収録されており、Mengoniが今や若手カンタウトーレたちの筆頭たるビッグな存在であることから考えても、MahmoodにはポストMengoni的な成功が期待されている。

Charlie Charles(チャーリー・チャールズ)がDardust(ダルダスト)とタッグを組んでリリースした「Calipso(カリプソ)」にもMahmoodはフィーチャリングされているが、実はこの3人が前出のサンレモ優勝曲「Soldi」を書いた面々なのだ。同曲にはさらにベテランラッパーFabri Fibra(ファブリ・フィブラ)、人気若手ラッパーSfera Ebbasta(スフェラ・エッバスタ)が客演し、豪華な顔触れが揃っている。冒頭はSfera Ebbasta、続いてMahmood、そしてFabri Fibraと歌い継がれていき、まるでMahmoodの楽曲に2人のラッパーが客演した楽曲に見える。

Charlie CharlesとDardustは裏方に徹しているのは、彼らは歌手ではなく、本業は プロデューサーだから。Charlie Charlesの本名はPaolo Alberto Monachetti(パオロ・アルベルト・モナケッティ)で、実はイタリア人。DardustことDario Faini(ダリオ・ファイーニ)は超が付くほどの売れっ子作曲家&ミュージシャンでもある。Emma(エンマ)などのオーディション番組出身歌手からJovanotti(ジョヴァノッティ)に至る大物まで、彼が楽曲提供&コラボした人気歌手たちは枚挙に暇がない。

※当サイトでのSfera Ebbastaの紹介記事
http://piccola-radio-italia.com/tag/Sfera_Ebbasta

※当サイトでのFabri Fibraの紹介記事
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※当サイトでのMahmoodの紹介記事
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注)記事中の歌手の年齢は、記載時点での誕生日の到来を考慮はせず、2019年に達する年齢で表記。